非上場株式の株価算定は、事業承継・M&A・相続・組織再編で必ず論点になる重要なテーマです。算定方法によって株価が数倍動くこともあり、税務戦略上のレバーとして機能します。本稿は、非上場株価の主要算定方法と、実務的な活用を整理します。
非上場株価の主な算定方法
非上場株式の評価は、目的(税務評価か取引評価か)と立場(売り手か買い手か)により異なります。主な算定方法:
- 類似業種比準価額方式(税務評価で多用)
- 純資産価額方式(時価純資産ベース)
- 配当還元方式(少数株主向け、税務評価)
- DCF法(将来CFの現在価値、取引価額で活用)
- マルチプル法(類似企業比較、取引価額で活用)
税務評価の方式選択
相続税・贈与税の評価では、財産評価基本通達に基づき、会社規模(大会社・中会社・小会社)と支配株主・少数株主の区分で評価方式が決まります。
大会社:類似業種比準価額方式のみまたは併用
中会社:類似業種比準と純資産価額の併用
小会社:純資産価額方式のみまたは併用
会社規模は従業員数・売上高・総資産額で判定。中小企業の多くは中会社または小会社に該当。
類似業種比準価額方式の構造
類似業種比準価額方式は、対象会社と同業種の上場会社の数値(配当・利益・純資産)を比較して株価を算定。
計算式:類似業種の株価 × (対象の配当/類似の配当 + 対象の利益/類似の利益 + 対象の純資産/類似の純資産) ÷ 3 × 斟酌率(大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5)
業種別の類似業種株価は国税庁が毎年公表。配当・利益・純資産は対象会社の決算書から算出。
純資産価額方式の構造
純資産価額方式は、会社の純資産(時価ベース)を発行済株式数で割って1株あたり株価を算定。
計算ポイント:(1) 資産・負債を時価評価、(2) 含み益に対する法人税相当額37%を控除、(3) 1株あたり純資産価額を計算。
含み益のある不動産・有価証券を多く持つ会社は、純資産価額方式で株価が高くなる傾向。
株価対策の方向性
事業承継・相続で株価を引き下げるための主な施策:
- 役員退職金支給による利益・純資産の圧縮
- 含み損失資産の処分
- 配当性向の引き下げ(配当要因の株価低下)
- 不動産の取得(借入金で取得すれば純資産が変動)
- 持株会社化(子会社株式の評価を圧縮)
これらは実行から効果が出るまで2〜3年かかるため、早期着手が決定的に効きます。
M&A時のバリュエーション
M&A時の取引価額の算定では、税務評価とは別の方式が使われます。代表的なのが、(1) DCF法、(2) マルチプル法(EV/EBITDA、PER等)、(3) 年買法(時価純資産+営業利益2〜5年分)。
中小企業M&Aの実勢は、年買法と純資産法の組み合わせが多く、EBITDA倍率は業界別に3〜10倍のレンジ。SaaS・IT・成長業種は高倍率、伝統的小売・飲食は低倍率の傾向。
種類株式・属人的株式の活用
株主構成を工夫することで、株価対策と経営権の安定化を同時に実現する手法があります。
種類株式:議決権制限株式、配当優先株式、取得条項付株式など。例えば、後継者に議決権を集中させつつ、経営者本人や他の親族に配当優先株式を配分することで、経営権の集中と相続税対策を両立できる。
属人的株式:株主ごとに権利を変えられる仕組み。譲渡制限会社で活用。
株価算定の専門家活用
非上場株価の算定は、税理士・公認会計士・FAなどの専門家のサポートが必要です。特に以下の場面では専門家が必須:
- 相続税申告での株価算定
- 事業承継対策としての株価対策
- M&A時のバリュエーション
- 組織再編における株価決定
with総合研究所では、税務評価とM&A評価の両面から、株価算定と対策設計を伴走しています。
※本記事は一般的な情報提供を目的とした解説であり、個別の税務・財務・法務に関するご相談については、専門家にご確認ください。記載内容は2026年5月時点の制度・実務に基づきます。